透析治療をしている患者に対して月に一度足に異常かないか看護師がチェックを行います。
怪我してないか?水虫はないか?巻き爪は痛くないか?冷えやしびれ感は?などなどチェックリストに基づいて確認していきます。
特にトラブルのない人で問診も入れて5分程度、何かある人でも10分くらいで終わる仕事です。
私が勤める透析クリニックはそれほどフットケアには力を入れておらず、取り敢えず加算を得るためチェックをしている程度です。
また正直に申し上げますと、仕事とはいえ一日に何人足を見ていても何一つ面白くありません。
与えられた仕事として漫然とフットチェックをしてきましたが
これに何の意味があるの?
職員一同「足大事!」と口をそろえて言うけれど、、どうして?
と入職半年にしてようやく、おじさん准看護師は疑問を持つようになりました。
また、フットチェックの際に患者から「なんで足見るの?」と聞かれ、その度になんとなくの説明しかできず、モヤっとした経験も積み重なっていました。
今回は透析患者になんでフットチェックが必要なのか?を分かりやすく説明できるようになるため、勉強していきたいと思います。
具体的に何を防止したいのか?
結論を言うと、足の切断を防止することです。
透析治療中の合併症や透析に至るまでの病気によって、最終的に足を切断しなければ命に関わる状況に陥ることがあります。
足を切断すると当然足が無くなってしまいますので、歩けなくなります。
1人で外出しづらくなるので、引きこもりがちになり万病のもとであるストレスフルな状態が続きます。
また第二の心臓と呼ばれるふくらはぎを失うと、下半身へ流れた血液を心臓に戻す力が弱まり浮腫みやすくなります。
足を失うとスクワットなど下半身の筋力強化をしづらくなり、体全体の70%を占める太もも、お尻、ふくらはぎなどの大きな筋肉が落ちてしまいます。
そうして運動量が減り、筋肉が落ちてしまうと、太りやすくなり、いずれ生活習慣病なり動脈硬化を招くことにもなります。
切断手術によって長期入院を強いられ、寝たきり状態になってしまうことも珍しくありません。
足を切断した患者は様々な合併症を持っていることが多く、術後の死亡率は1年後で約30%、3年後で約50%、5年後で約70%にも及ぶことが研究によって明らかになっています。
そんな最悪の状況になる前に、フットチェックによって異変を出来るだけ早く見つけて、足が無くならないように手助けすることが目的になります。
なんで足を切断することになるのか?
これも結論から言うと足が腐る(壊疽する)からです。
腐る原因は大きく3つあります。
1:気づきにくい
普通の人でも、普段から足先や足裏までチェックしていることは稀です。
それなのになぜ私たちの足が腐らないかというと、痛みやかゆみなどの違和感を感じ取ることが出来ているからです。
例えば、箪笥の角に小指をぶつければ、叫びたくなるくらい痛いですし、靴の中に小石が入っていれば不快で仕方ありません、カイロが当たり続けていれば熱いし、水虫になればかゆみを感じる。
(多少鋭い鈍いの個人差はありますが)そういった普通なら備わっているはずの感覚が極度に失われることがあります。
それは透析患者の多くが抱えている糖尿病によるものです。
糖尿病の3大合併症の一つに糖尿病神経障害があり、これが原因で特に足先の感覚が鈍くなり、ケガや火傷をしやすくなる上、気づいていないのでその状態を長期間放置することになってしまいます。
同じところを何度もぶつけてケガが悪化したり、いつまでも治らなかったり、傷の保護や処置をしないと、ばい菌が入って化膿したりすることで最終的に足が腐ってしまいます。
2:傷ができやすい
透析を受ける患者の皮膚が乾燥(角層の水分量が減少)していることが理由の一つに挙がります。
糖尿病の合併症により自律神経に障害が起きてくると、汗をかきにくくなり皮膚が乾燥します。
また透析を導入した患者は運動に制限が掛かることが多く、長期の透析治療により皮脂腺や汗腺が委縮してしまい、皮脂の分泌や汗をかく量が減ることが分かっています。
透析患者の皮膚乾燥は、皮膚保湿機能が健康成人と比較して低下しているのではなく、皮膚表面への油や水分の供給が、少なくなることで起きていると考えられています。
乾燥が悪化するとひび割れや亀裂が生じ、そこから感染して壊疽に繋がります。
その他にも糖尿病による運動神経障害が起きると足筋肉の緊張のバランスが崩れ足が変形してしまうことがあります。
- ハンマートゥ
Z字に指が固まっている状態で、ハンマーのような形に見えることから、ハンマートゥと呼ばれます。
特定の靴を履いているときに痛みを感じることがあり、人によっては足趾の付け根が痛むことがあります。
第二趾に最も変形が起きやすく、歩行中に靴などで足趾の上側が常に擦れる状態になります。
- クロートゥ
鷲の足のような形から、クロートゥと呼ばれています。
ハンマートゥと同様にアーチ状になった足趾の上側が擦れやすく、皮膚が固くなりやすい状態になります。
上記のような足の変形が起きると、歩行中に足趾や足底に異常な圧が掛かり、たこや魚の目、皮むけが起きやすく、そこから感染を引き起こす可能性が高まります。
3:治りにくい
糖尿病を患っていると高血糖状態が続き、それに加え肥満や脂質異常症、高血圧といった危険な状態が重なることで動脈硬化になりやすくなります。
更に透析患者は腎臓の機能が低下しているため、リンの排泄が健常者に比べて少なく、それによって血管内に石灰化が生じしやすくなっています。
つまり糖尿病から透析を導入した患者は、血管が固く内径が狭まることで、健康な人と比べて血液の流れがとても悪くなっていることが分かります。
動脈硬化や血管の石灰化などの影響により、足先の細い血管内が更に狭くなり体の組織が生きていくのに十分な酸素や栄養、治療に必要な薬剤が行き届かなくなることが、傷の治りにくい原因です。
最終的に血管が詰まってしまうと、その先の組織は壊死してしまい、足を切断しなければならなくなります。
患者へ説明してみよう
以上の項目を踏まえ、簡潔になぜフットチェックをするかを患者に説明するとこうなります。
透析治療をされている人は、血管や神経の障害が起きている可能性があるので、傷が治りにくかったり感覚が鈍い状態になっています。
1怪我しやすい
2気づかない
3ばい菌が入る
4悪化しやすい(治りにくい)
5足腐る
および
1血の巡りが悪くなる
2血管詰まる
3足腐る
なんでフットチェックをするのかが分かれば、観察項目も見えてきます。
感覚系では
- 足先の感覚は鈍くないか?
- 乾燥はないか?
- 傷(火傷)はないか?
- 水虫はないか?
- タコや魚の目はないか?
- 爪や足趾の変形、異常はないか?
循環系では
- しびれ、冷えはないか?
- 爪や皮膚の色は悪くないか?
- 安静時に痛みはないか?
- 間欠跛行は?
- 足背動脈は触れるか?
これらの項目から足が壊疽して最悪の場合、切断することに繋がります。
足先は体の一番遠い所にあるので、健康な人でさえ気づきにくいのに、障害により感覚が鈍っていれば尚の事変化に気づくのは難しいと思います。
気づかないで放置してしまうことが一番怖いことであり、出来るだけ早く治療を開始することが大切になります。
我々看護者が行う日々のフットチェックにより初期の症状を見逃すことなく、いかに早く些細な異変に気づけるかが予後を大きく左右します。
足に少しでも関心を持ってもらえるように、患者のなんでフットチェックするの?という疑問には少しでも分かりやすい説明を心掛けたいものです。
余談ですが、フットチェック加算というものがあり、患者一人につき診療報酬100点(1000円)が付きます。
ひと月に一回しか加算は取れませんが、私が勤めている小さなクリニックでも150人くらい通院しているので、ひと月15万円の売り上げに貢献しています。
自分の観察が給与に少しでも反映されているかもしれないと考えると、少し働くモチベーションアップにつながるかもしれません。