【飽和潜水士になる少し前の話】ダイバーナイフに命を救われた自衛官

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ナイフダイバー仕事

潜水士なりたてホヤホヤの頃、潜水訓練に持っていっても出番のない、ダイバーナイフの有り難みを本気で感じたことがあります。

ナイフは学生教育中は使用する機会が殆どなく、使い道や使い方について詳しいレクチャーはありません、ナイフだから何となく切ったり刺したりするのに、使うんだろうなくらいの理解しかなかったし、何に使うことがあるの?っていう質問はアホだと思われるんじゃないかと思って出来なかったのを覚えています、変なプライドがあったのでしょう。

初めての夜間潜水で、水深20m前後、底質砂泥、潮流なし、半円捜索を実施しました。特に捜索物もなく、往復なしで半分回ったら終わりの訓練、海中捜索の基本の「き」のような難易度のはずでした。

捜索方法としては初歩かもしれませんが、夜間潜水自体初めてだったし、半円捜索も学生以来やっていなかったので正直滅茶苦茶不安、だからといって「ちょっと怖いんで今回はパス、明るいときにお願いします」なんて口が裂けても言えません。

もしちょっとでも、ナイーブな発言をしたもんなら「学生のとき何してたんだ?」「ゴチャゴチャ言わず、場数を踏め」「慣れだよ、慣れ」「次から潜らせてもらえなくなるぞ」と罵詈雑言の嵐間違いなし。若い頃はまだメンタル強めでしたが、弱味を見せると叩かれる環境は理解していたので、前向きに参加を表明したわけです。

先輩飽和潜水士と潜り始め、捜索線展張と形だけの捜索を終え、後は基点に帰って浮上するだけ、『久しくやってなかったわりには俺まあまあ出来るじゃん!』と内心自画自賛とダブルチェーンノットしながら戻ってました。

先輩が戻るのが速くて、負けじと追いかける形でスピードを上げていった時です、焦るあまり索の捌きが追い付かず、テンションが緩み捜索線がグチャグチャに😵、それでも早く基点に戻らねばという一心で何とか辿り着きますが、到着する頃にはもう何処をどうほどいていいか分からないくらい、ヒッチャカメッチャカ状態です。

もちろん既にパニック状態だった私はジタバタと索をいじくり回すだけ。しばらくそんな私の様子を見ていた先輩が、見かねてダイバーナイフで切れと合図、私は右足に着けていたナイフの存在にその時やっと気づき、無我夢中で目の前の索を手当たり次第切りまくりました。

しかし、いざ使うと持っていたナイフが全然切れないことに気づきます。年季が入っているのか元々そうなのかわかりませんが、刃の部分が丸くなってて、とてもじゃないけど切れない。索が切れる前に心とボンベの空気が切れそうです。どうにかこうにか摩擦と力で無理矢理引きちぎるような形で切りました、火事場の馬鹿力ってやつです。

バラバラに切られた捜索線を残し、なんとか海面に浮上。死に物狂いだったので潜水時間は不明、浮上時間もやらかした事で意気消沈で、時計も深度計も見ず人任せで上昇、先輩におんぶにだっこ状態です。

浮上後、異常の有無とともに潜水指揮官や上司に何があったかを報告します。情けなくてずっとうつむき加減で話していたので表情は見ていませんが、呆れたような、次頑張れよ的な声かけがあったような気がしました。

先輩方からは笑い者にされましたが、潜水訓練の回数も少ないから仕方ないというフォローも貰いました。他には、もう捜索終わってるなら捜索線なんかほっといて自分だけ上がってくればいいとか、チェーンノットじゃなくて適当に輪がねてくればいい、どうせ後からキレイにやり直すんだからとか色々アドバイスを貰えたのは嬉しかったな。

まあ人によって言うこと違うので、後日の訓練でチェーンノットせずに戻ったら、何でそんなやり方してんの?と怒られてしまい、結局基本にたち戻ることに。その人の言い分としては、チェーンノットしておけば、またすぐ捜索することになったとしても、即対応できるというもの、それもごもっともな話で納得。

部隊で応用を利かせるのは、ちゃんと根拠があってこそですね。捜索が目的で物が見つかれば終わりであれば、索なんか捨て置いていいですが、複数個あってまだ全部発見出来ていなければ、次の捜索に備えるのは当然のこと、失敗から学びました。

あとナイフはよく切れる物を持ちましょう、今回は捜索線のような細いものだったのでなんとかなまくらナイフでも切れましたが、これがもしもっと太い索であったら絡まったまま、海中で死んでいたかもしれません。

何か有ったときのためのバディ潜水ですが、自分の身は自分で守るのがダイビングの基本。潜水に必要な装備を忘れないように準備しておくのはもちろん、そもそも機能を果たせるか確認しておくこともとても大切、普段使わないからといって切れないナイフ持っていっても意味ないよ、アクセサリーじゃないんだよ、と無事だったから笑い話で済んだ、怖くて情けない失敗談でした。