なぜ飽和潜水では空気じゃなくヘリウム酸素使うのか?

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ヘリウムガス仕事

飽和潜水装置を用いて深海に潜るときは、一般の潜水に使用しているもっともメジャーなガスである空気を使用しません。

空気で深くまで潜ると、様々な問題が生じてくるからです。

今回はなぜ飽和潜水では、ヘリウム酸素を使うのかを説明していきたいと思います。

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窒素酔いの防止

酔い

空気の構成は窒素79%酸素20%その他1%となっていて8割近く窒素が含まれています。

この窒素は不活性ガスと言われ他のガスと反応しない人体に無害なガスですがそれは大気圧下でのことになります。

水深30m付近から症状が出始めます、気分が高揚し、凄く楽しい気持ちになります、些細なことも面白く感じ笑いが止まらなくなり、それに伴い冷静な判断が出来なくなります。

その症状がお酒に酔った状態に似ていることから窒素酔いと呼ばれることが多いです。

症状の強弱は個人差ありますが、空気を使用して深く潜った場合、どんなに経験を積み訓練されたダイバーでも窒素酔いから逃れることはできません。

陸上ではなんてことない単純な作業(索を結びつける、ボルト1本止める等)ですら困難を極めます、最悪の場合意識を失い浮上できずに命を落とすことさえあります。

そんな危険な窒素酔いを防止するため飽和潜水では空気の換わりにヘリウム酸素を使うわけです、ヘリウムも窒素と同じく不活性ガスですが窒素酔いを引き起こすような麻酔作用はありません。

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呼吸抵抗の軽減

呼吸苦

空気の大部分を占める窒素の分子量をご存じでしょうか?

中学年の頃に学んだ水平リーべ僕の船ってやつです、この分子量が少ないほどガスが軽く呼吸抵抗も少ないので飽和潜水に使用する呼吸ガスに適しています。

窒素は28、ヘリウムは4とその差は実に7分の1、潜る深度が深くなるなるとダイバーを取り巻く環境の圧力が増すため、呼吸するガスの密度は高まります。

仮に地上と同じ量のガスを吸い込むにしても、密度が高まると呼吸するのに抵抗を感じるようになります。

普通に息をしてても、ガスが肺まで入ってこないので、常時深呼吸しているような感覚です。

レジャーダイビング経験があるのなら、シュノーケルの換わりに細いストローを使って呼吸している感覚と言えばどれだけ息苦しいか伝わるかと思います。

因みに深度が300mを超えてくると、例えヘリウム酸素を使っていたとしても息苦しさは相当なものです。

食事も息を切らしながら摂る、口呼吸が常態化、寝苦しく睡眠が浅くなるといった苦痛を加圧中しばらくの間耐える必要があります。

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酸素中毒の予防

酸素中毒

酸素は生きていくうえで欠かすことが出来ないものですが、実は酸素中毒と呼ばれる毒性があります。

高分圧の酸素を呼吸することによって、吐き気や唇周囲のピクツキや視界の狭まり、痙攣発作といった症状を起こします。

米海軍の厳密な統計検討から、酸素中毒が生じる可能性が皆無な酸素分圧は1.3気圧といわれています。

これは空気で潜ったと仮定すると55m相当となり、それ以上深く潜るには、酸素濃度を空気より薄くしたガスを使用しないと酸素中毒が起きる恐れがあります。

大切なのは酸素中毒で生じる痙攣発作は、急に症状が現れるため発症してからの対処を考えるよりも予防が重要となります、なので潜る深度に応じて酸素中毒が起きない範囲の酸素分圧の管理が必要ということです。

ちなみに酸素分圧1.3気圧は、安全であることは間違いないですが、かなり厳しい基準です。

潜水の形態によって上限を1.4-1.6気圧に設定するほうが現実的と言われています。

例えばスクーバ潜水の場合では、痙攣発作が起きれば水中で呼吸ができなくなり、ほぼ間違いなく命を落としてしまうので厳密な酸素分圧の1.3気圧まで。

ヘルメット潜水の場合なら、痙攣発作を起こしてもそれが直ぐに命に関わるというものではありませんし、意識がなくてもテンダーが海面まで引き揚げてくれるので、少しリスクをとって酸素分圧1.6気圧までといった具合です。

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まとめ

飽和潜水では空気でなくヘリウム酸素を使う理由は3つ


①窒素酔いの防止
②呼吸抵抗の軽減
③酸素中毒の予防

空気に含まれる窒素や酸素が、深く潜ることで人体に悪影響を引き起こすことが分かってもらえたかと思います。

過去には、ヘリウムの替わりに最も密度の小さい水素を使ったり、酸素濃度を調整した窒素酸素を使った飽和潜水も試されていますが、現在はヘリウム使用がスタンダードとなっています。

この記事を読んで、飽和潜水という仕事に興味を持たれた方は、海上自衛隊の門を叩いてみてはいかがでしょう。